Space Dungeon は1981年ではなく1982年にリリースされた
- 1. はじめに
- 2. 余談
- 3. 結論
- 4. 情報元まとめ
- 5. ゲーム画面内の表記
- 6. PSP Taito Legends Power-Up
- 7. Space Dungeon マニュアルの権利表記
- 8. Atari 5200 版の権利表記
- 9. アメリカ合衆国著作権局 著作権登録の情報
- 10. イベント Texas Video Game Championships
- 11. 雑誌広告の初出
- 12. 雑誌の新製品記事
- 13. 雑誌 Cash Box 記載の製造日
- 14. DRA Price Guide 記載の製造日
- 15. Space Dungeon の開発者
- 16. 1982年に言及している人が存在した!
- 17. その他の情報
- 18. おわりに
はじめに
これは、Taito America 社が開発・販売したアーケードゲーム「Space Dungeon」のリリース日について調べた結果をまとめたものです。多くの Web サイトでは「1981年」としていましたが、出典を詳しく調べたところ、実際のリリース年は「1982年」であろうことがわかりました。
余談
なぜ調べたかというと、「Space Dungeon」に使われているフォントが MICR 書体であり、MICR 書体の情報を収集しているからです。収集する際に、公開された日付や関連情報も調べ、できる限り確かな出典を探しています。すべての MICR 書体情報を集めています。ゲーム、看板、ポスター、建築物など、何でも構いません。似た書体を見つけた方は教えてください(X に投稿か、[email protected] まで)。
結論
アメリカ合衆国著作権局には、作成日1982年、公開日1982年1月29日として Taito America が登録しています。ただし、当時の雑誌などから得られた情報では、1982年6月5日にゲーム大会のイベントで発表されたのが最も早く、新製品情報の記事を見ると、実際に稼働・販売されたのは7月頃です。ゲームの Copyright では1981年となっているのは、開発を始めた時期かもしれません。
情報元まとめ
日付に関する情報元一覧です。それぞれ詳細を下記に記載していきます。
情報元 | 日付情報 |
---|---|
ゲーム画面内の表記 | COPYRIGHT MCMLXXXI BY TAITO AMERICA CORP (MCMLXXXI がローマ数字表記で 1981) |
PSP Taito Legends Power-Up 内の表記 |
1981 |
Space Dungeon マニュアルの権利表記 |
© 1982 Tread Marks of Taito America Corporation |
Atari 5200 版の権利表記 | Trademark and © of Taito America Corporation 1982 |
アメリカ合衆国著作権局 著作権登録の情報 |
作成日: 1982年 公開日: 1982年1月29日 |
イベント Texas Video Game Championships で最新作として発表 |
1982年6月5日開催 |
雑誌広告の初出 | Play Mater: 1982年8月1日号 Replay: 1982年7月号 |
雑誌の新製品記事 | Play Mater: 1982年8月15日号、10月15日号 Replay: 1982年8月号 Cash Box: 1982年7月17日号 Vending Times: 1982年8月号 |
雑誌 Cash Box 記載の製造日 | 1982年7月 |
DRA Price Guide 記載の製造日 | 1982年7月 |
Space Dungeon プログラマーの Taito America 在籍期間 |
1981~1982年 |
ゲーム画面内の表記
間違いの元凶は、ゲーム画面のコピーライト表記が1981年です(MCMLXXXI がローマ数字表記で 1981)。
SPACE DUNGEON、COPYRIGHT MCMLXXXI BY TAITO AMERICA COPR いずれもフォント「Data 70」にインスパイアされた MICR 書体です。
PSP Taito Legends Power-Up
「Taito Legends Power-Up」は、クラシックな Taito ビデオゲームをまとめた PSP ゲームで、2006年〜2007年に海外でのみ発売されました。これに Space Dungeon が収録されています。
ゲーム選択画面では「1981」とありますが、Copyright 表記からそのまま 1981 としたのではないかと推測します。
(Taito Legends Power Up - PSP - Gameplay - YouTube)
Space Dungeon マニュアルの権利表記
ここからは、1982年の記載がある情報です。
存在が真実であるかは調べようもないですが、アーケード筐体のマニュアルが Internet Archive で公開されています。このマニュアルの表紙には「© 1982」と記載されています。それ以上の情報はありません。回路図の年月の欄に1981年の記載がありますが、おそらく1981年発売の QIX の流用ではないかと思います。
Atari 5200 版の権利表記
Space Dungeon は、Atari 5200 に移植され1983年に販売されています(こちらの年月は詳しく調べていません)。
取扱説明書に「Trademark and © of Taito America Corporation 1982」の記載があります。これも、Internet Archive から。
Atari 5200 and Atari 2600 News Releases にも同様の記載があります。これは、1982年から1984年までアタリのフリーランスコピーライターを務めたヴィクター・クロス氏によって提供されたアタリのニュースリリース(プレスリリース)のコレクションとのこと。
アメリカ合衆国著作権局 著作権登録の情報
これはかなり後になってから知った情報ですが、アメリカ合衆国の著作権に関する登録と管理を行う機関に、Tatio America が Space Dungeon を登録していました。
- Date of Creation(作成日) 1982
- Date of Publication(公開日) 1982-01-29
と登録されていますので、公式にはこれが答えでしょう。ただし、公開日1月29日も、確認できる記録では見つけられず、最も早い記録で1982年6月5日の発表、そして7月ごろに稼働・販売となっています。
Space dungeon. Detailed Record View | U.S. Copyright Public Records System
この Space Dungeon の登録情報には、他にはない「Date in Notice」という項目があり「notice: 1981」という値になっています。これを都合よく解釈すると、作成日・公開日は1982年だが、ビデオゲームの代わりに提出された「ビデオカセットとあらすじ(1ページ)」には、1981 の記載があるということではないでしょうか。
また、登録日が1983年2月15日と発表から日が経っています。Atari 5200 の移植時期かとはじめ推測しましたが、同じ日付で他5本のゲームが登録されていたので、著作権登録に無頓着だったのではないかと推測します。
イベント Texas Video Game Championships
さて、ここからは当時の雑誌からの記録です。最も早く記録を確認できたのは、Texas Video Game Championships というイベントで Space Dungeon が発表されています。
雑誌「RePlay」1982年7月号より。Texas Video Game Championships は、1982年6月5日 ダラスのマーケットホールで開催。主催は、セブンイレブンとドクターペッパー社。予選は4月からテキサス州のセブンイレブン店舗で行われたようです。この場で、新作ゲームの発表が行われ、そのうちのひとつが Space Dungeon です。決勝進出者の3人は、メーカーの担当者から簡単な説明を受けた後、新作ゲームでも対戦を行ったとあります。
雑誌「Video Games Player」1982年秋号にも記録があります。6月5日の朝の記載、そして、決勝進出者たちは3つの新しい「ミステリーゲーム」でビデオゲームの腕前を試さなければなかったというテキストと Space Dungeon 等の筐体の写真があります。
雑誌「Play Meter」1982年7月15日号よりニュース記事にも記載があります。
雑誌広告の初出
Space Dungeon の広告が現れるのは、調べた限りでは、雑誌「RePlay」では、1982年7月号。雑誌「Play Mater」では、1982年8月1日号です。どちらも同じ広告です。まだどのようなゲームか広告では明かされていません。
Play Meter は Internet Archive にあります。
ちなみに、詳細が明らかになった広告はこちら(2ページ構成)。
雑誌の新製品記事
雑誌の新製品情報に Space Dungeon が登場した号をまとめました。
- Play Mater: 1982年8月15日号、10月15日号
- Replay: 1982年8月号
- Cash Box: 1982年7月17日号
- Vending Times: 1982年8月号
いずれも新製品として紹介されています。なぜか Play Mater は2回記事になっています。雑誌が実際には何日頃に発売されるかは不明ですが、7月ごろが実質的な稼働・販売月と思われます。
※ Cash Box 1982年8月21号 p.42 左下にも記載あり(この説明のある日付は Cash Box 何月何日号で紹介したか)
雑誌 Cash Box 記載の製造日
雑誌 Cash Box には、製造年月をまとめた記事があり、Space Dungeon は 1982年7月です。
DRA Price Guide 記載の製造日
DRA(Distributors Research Associates) Price Guide は、中古機器の価格を把握するための参考資料として、再販売業者などに向けて発行されているガイドブックです。これには、価格だけではなく製造年月の記載もあります。
1984年9月の DRA Price Guide には、Space Dungeon は 1982年7月として記載されています。
アーケードTVゲームリスト
ところで、アーケードゲームの出荷年月をまとめた「アーケードTVゲームリスト(赤木真澄 編集)」は、この DRA Price Guide を参考資料のひとつとしています。アーケードTVゲームリストでも、1982年7月を出荷年月として記載しています。
Space Dungeon の開発者
開発者についても調べたところ、Space Dungeon の開発者は、Rex Battenberg 氏です。確信的な情報は得られませんでしたが、1981年〜1982年に開発したのであろうことがわかります。
タイトル画面の隠しコマンド
The Cutting Room Floor によると、隠しコマンドでタイトル画面に「DESIGNED AND PROGRAMMED BY REXFORD AYERS BATTENBERG FOR TAITO AMERICA CORP」とデザイナーとプログラマーとして氏の名前が表示されるようです。ちなみに、表示できるコマンドは無いものの ROM には不正コピーを想定した(?)「STOLEN FROM THE GOOD BUDDY’S AT TAITO BY AN UNAUTHORIZED DO BADDER」という隠しテキストも含まれています。
LinkdIn の職歴
MobyGames によると、Rex Battenberg 氏の LinkedIn がこちら。職歴を見ると、Taito America に 1981年〜1982年在籍しています。
インタビュー記事
2001年8月のインタビュー記事も存在しています。
Taito 時代のことを次のように語っています。
Taitoで働くことは楽しかったです。そこには「ディフェンダー」というゲームがあり、私たちはいつもそれをプレイしていました。「ディフェンダー」は今でも私のお気に入りのアーケードゲームです。
最初はTaitoでは自由に何をしたいかを決められたので、私はダンジョンをテーマにしたアーケードゲームを作ることにしました。当時、ゲーム開発は基本的に1人または2人のプロセスでした。私はゲーム全体を開発しました(効果音以外)。私たちにはすべてのゲームの効果音を担当するプログラマーが1人いました。私が「Space Dungeon」を開発した後、Taitoでの状況は暗転し始めました。私には、友人のクリエイティブマネージャーのアイデアであるゲーム「Clones」を開発するように言われました。最初から、そのゲームのアイデアはくだらないと言いましたが、それでもやるように言われました。さて、私はそれをしましたが、誰もが私が素晴らしい仕事をしたと言いましたが、そのゲームは本当に失敗作でした。Taito で他のことも悪くなり始め、再び別の仕事を探すことにしました。
Zoo Keeper
Rex Battenberg 氏のインタビュー記事では Space Dungeon と「Clones」を開発したと答えていましたが、Taito America の「Zoo Keeper」のプログラマーとしての情報もネットでは存在しています。
その根拠と思われるのが、Zoo Keeper のプログラマーである John Morgan 氏に関する文書
The Giant List of Classic Game Programmers の「John Morgan’s Story of Zoo Keeper」です。
ここに、メインプログラマーのひとりとして Rex Battenberg 氏が登場していますが、ディレクターの Keith Egging 氏の話に付き合わされた Taito America 内の主要なプログラマーのひとりということかもしれません。
この文書によると Zoo Keeper は、Keith Egging が元になるアイデアを出し、最初のコンセプトは、カニが画面上を走り回るものでした。カニを人間に変更し、逃げる動物を動物園に戻すという設定に John が変更したようです。Zoo Keeper は、1983年にリリースされ、全米で第3位のゲームとなったが、アーケード市場が大きな衰退を迎えたため、予想よりも少ない売り上げとなったとのこと。
これが、「Clones」のことなのか、全く別の話なのかは不明です。
Digital Press Easter Eggs では、John によるとタイトルは「King Crab」になる予定であったという情報もあります。
1982年に言及している人が存在した!
既に記事は削除されていますが、2013年8月投稿の「The Games of Taito America Corporation」という記事についたコメントに、1982年7月にリリースされたとコメントしている方がいました。
Oh, and one other note. Despite what Wikipedia and MAME say, Space Dungeon wasn’t released until July of 1982, several months after Robotron (as confirmed by RePlay, Play Meter, Cash Box, and Vending Times magazine and the DRA Price guide)
もうひとつ言及しておきます。ウィキペディアやMAMEの記載とは異なり、『スペースダンジョン』は1982年7月まで発売されていませんでした。これは、『リプレイ』、『プレイメーター』、『キャッシュボックス』、『ベンディングタイムズ』誌、およびDRAプライスガイドによって確認されています。
このコメントを受けて編集された文章がこちら。
Don’t believe everything you see about old arcade games… Even if the source is the company who made it! As reader astrp3/Kevin Smith pointed out in the comments, several sources at the time confirm Space Dungeon came out in 1982, despite a few other sources, like MAME’s history.dat and Taito themselves (in Taito Legends: Power-Up for the PSP) saying it came out in 1981. In any case, Space Dungeon has you exploring, well, a dungeon.
古いアーケードゲームについて目にする情報をすべて信じないでください…たとえそれが製作会社からの情報であってもです!読者のastrp3/Kevin Smithがコメントで指摘しているように、当時のいくつかの情報源は『スペースダンジョン』が1982年に発売されたことを確認しています。一方で、MAMEのhistory.datやTaito自身(PSP向けの『Taito Legends: Power-Up』において)は1981年に発売されたとしています。いずれにせよ、『スペースダンジョン』では、ダンジョンを探索します。
その他の情報
- Electronic Games – Volume 01 Number 10 (1982-12) p.65
- As the year comes to a close, anew batch of titles are being hailed as the “Next Big Things’. Jungle King and Space Dungeon are both drawing excellent notices, as is Atari’s Kangaroo.
- Space Dungeon, Arcade Video game by Taito America Corp. (1981)
- 出典不明だが(Sources 記載の内容にはない)、リリース日を February 1982 と記載していて、著作権登録情報の1月29日と近い。
- Ultimate Future Games Issue 06 Supplement - Encyclopedia Of Videogames (1995年発行)
- 1982年リリースとしている
- The encyclopedia of arcade video games (2004年発行)
- 1982年リリースとしている
- PlayMeter 1982 Volume 8 Number 9 より AOE(1982年3月26〜28日開催)に関して。AOE では発表していない。
- Taito America was showing two new video products: The Electric Yoyo and Kram. Also on view were Taito’s hit video Qix and its current Alpine Ski.
- イギリス雑誌 Computer & Video Games Issue 013 (1982-11) p.31
- The search for cosmic treasures takes place in Space Dungeon, a new game which is being tried out at a few locations in Britain.
- 『スペースダンジョン』では、宇宙の宝物を探す冒険が繰り広げられます。この新しいゲームは、現在イギリスのいくつかの場所で試験的に設置されています。
おわりに
今回、調べた理由は冒頭で述べたように、ゲームに登場するフォントが MICR 書体であり、MICR 書体のゲームが登場した順に少し重要性を感じているからです。Space Dungeon の書体を紹介している「idea (アイデア) 2012年05月号」では、リリース日を1981年と記載しています。そのため、この本の素晴らしさは変わりませんが、1982年となると、ほんの少しだけ状況が変わってきます。
Robotron: 2084
世間一般では(?)、Space Dungeon と Robotron: 2084 が、どちらもツインスティックで片方が移動・片方が攻撃という似たプレイスタイルのため、よく比較され語られています。そこで、流行した Robotron: 2084 より1年も前に Space Dungeon が存在したという解説があったりするのですが、その話は異なってきます。
Robotron: 2084 の雑多なメモも残しておきます。
- AOE ’82(1982年3月26〜28日開催)
- Play Meter - Volume 8, Number 8 - April 15th 1982
- 広告
- Play Meter - Volume 8, Number 8 - April 15th 1982
- Williams Electronics will debut its new video Robotron 2084
- Play Meter - Volume 8, Number 8 - April 15th 1982
- 表紙が Robotron
- COVER CREDIT: Chicago’s opulent Hyatt Regency is the setting of The Show of the Eighties, AOE ’82. One of the star videos on display is Williams’ Robotron 2084, shown on our cover. Photo by Williams Electronics.
- New Products
- 表紙が Robotron
- アーケードTVゲームリスト
- Robotron: 2084 Williams Electronics 82/04
- Joystik 1982-09 p.32
- RePlay 1982年3月号
- AOE 前に新製品として紹介されている
- New Products
- Williams Electronics, Inc. is introducing 'Robotron 2084.’ a video they call “the ultimate conflict in video game play – man versus electronic man."
- DRA Price Guide
- 製造日: 82/4
- Robotron. Detailed Record View | U.S. Copyright Public Records System
- 公開日: 1982年2月16日
Mars
同様にツインスティックのゲームとして比較される台湾の会社 ATW の「Mars」。ただし、コナミのスクランブルの改造ゲームと思われます。
情報提供
インターネット上に存在しない雑誌データは、おにたまさんの協力を得て参照しました。