ヤマト運輸プログラミングコンテストの邪悪な点は落選しても著作権の譲渡
先日公開された ヤマト運輸株式会社主催の ヤマト運輸プログラミングコンテスト2019 が、応募すると著作権を譲渡するという一文があり悪い意味で話題です。7月11日現在、条件を変更せず、応募受付がはじまっています。
追記1: 応募受付の開始は不具合のようで7月11日中に取り消されています。また、落選作品の著作権譲渡も無くなることが Twitter で示唆されています。
追記2: 7月24日応募受付が始まりましたが、著作権の譲渡条項は残っています。
※ この「プロラミングコンテスト」は、競技プログラミングで、出題される問題の解答を開催期間中(2019/8/3~18)に提出するものです。
問題点は、受賞しなくても著作権を譲渡
批判されている内容はいろいろありますが、一番の問題点(というか唯一の問題点)は、受賞しない場合も応募した時点で著作権を譲渡し、著作者人格権を行使しないという条項があることです。
本コンテストの参加者は提出されたプログラムのすべての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を主催者(ヤマト運輸)に譲渡するものとします。 また、本コンテストの参加者は提出プログラムに対し、著作者人格権を行使しないものとします。
(2019/7/11 時点の ヤマト運輸プログラミングコンテスト2019 より引用)
実際に行われるかは別として、落選した作品(プログラム)を、主催者は、対価を支払わず、主催者自身のものとして、公表・使用・販売など何でもできます。
このような条項は、コンテストにおいて一般的・合理的ではなく、(落選した)応募者の利益を一方的に害する不当な契約条項であり、異常・邪悪です。
コンテスト応募者は、このことを理解して応募するよう、また、その他のコンテスト等で同様に不利益な条項がないか確認するよう、注意してください。
文学賞との違いは?
著作権を譲渡すること対し、文学作品のコンテストなどでは一般的という意見を見かけました。実際にその通りですが、「受賞作品の著作権を譲渡」という条件がまず間違いなく付いています。もし、主催者が落選させた作品を出版して利益を得るようなことがあれば、批判の対象になると予想できます。
文学作品の場合、出版社等に著作権が帰属している場合も、作者名が公開され、読者も作者の存在を理解していること、出版される名誉等もあり、著作権の譲渡が受け入れられているのかもしれません。一方、プログラムやアプリは、権利者が法人や団体であることは珍しくなく、プログラムやアプリの一部を誰が書いたということはあまりフォーカスされないので、著作権の譲渡自体 慎重になる必要があるかもしれません。
アイデアやアルゴリズムに著作権はないのでは?
アイデアやアルゴリズムには著作権がないという意見も見かけました。この点を主張することは大いにアリです。
ただ、主催者は著作権がある作品が応募されると考えていることが、条項から伺えます。応募者が、著作権がないと判断し、応募作品を使用した場合、主催者が、著作権の侵害として応募者を訴えることも考えられます。簡単に解決しなかった場合、民事訴訟や刑事事件になることもあり得ます。
民事事件・刑事事件になるよりは、応募時点で、落選作品について著作権の譲渡がないことが明示されていた方がよくないですか?
問題となっている著作権を譲渡する条項以外に、コンテストサイトから参照できる AtCoder 社の 利用規約 には、次の条項があります。
本サービスに対して投稿されたプログラムの所有権と著作権は、そのプログラムを作成したユーザに帰属します
(利用規約 - AtCoder から引用)
この条項からも、投稿されるプログラムに著作権があることが想定されていると伺えます。この利用規約には、「本規約の規定とその他の利用規約等の規定が異なる場合は、当該その他の利用規約等の規定が優先して適用されるものとします」ともあるので、今回の場合は、著作権を譲渡する条項が優先されると読めます。
ちなみに、コンテストのページには「参加の際にはAtCoder社利用規約、ルール等をよくお読みください」との記載もあります。著作権を譲渡させるという例外的な打消し表示の条項が「その他」に記載されているため、応募者に誤認させる構成とも考えられるかもしれません。
著作者人格権の不行使は無効(?)では?
著作者人格権は譲渡できないため、著作権の譲渡と併せて著作者人格権の不行使の特約を定めています。不行使特約があった場合も、著作者人格権の侵害で損害賠償等が可能という考えがあります。だから大丈夫(?)という意見も見かけましたが、上記と同じで、裁判等で争うより、応募時点で、落選作品について著作権の譲渡がないことが明示されていた方がよくないですか?
賞金が安い?
賞の内容は、応募者が判断して応募するものなので、何円でも問題とは考えていません。ただ、「賞金○○円程度で著作権を譲渡は安い」のような意見は、上記の通り間違いです。受賞作品 該当なしでも、無料で著作権を譲渡するよう主催者は求めてます。
部外者は批判するな?
コンテストに応募する気のない人・応募する実力もない人は、批判するな。コンテストをかき乱すなというような意見もあります。
批判・批評する自由はありますが、特に今回の場合は、応募者の利益を一方的に害する不当な契約条項であり、「違法とは直ちには言えない悪徳商法」のようなもので、批判されるべき対象と考えています。悪徳商法の場合、購入しなくても(コンテストの場合、応募しなくても)、不当な商法(やコンテスト)は無くなるよう、業界全体を健全化していくべきです。
プログラムコンテストは開催していませんが、アプリコンテスト主催者や協賛者として、邪悪だなと思う次第です。また、応募者は注意してほしいです。
ちなみに、2020年4月に施行される改正民法では、利用規約などの定型約款において、不利益条項は認められません。(今回の条項が不利益にあたるかは改正民放の施行後、裁判で争ってみないと実際のところわかりませんが)