いつからリットルの記号「ℓ」が使われ始めたか?
リットルの記号「ℓ」を、日本の教科書で使用しなくなった情報は多数ありますが、いつから「ℓ」使っていたかの情報はありません。少し調べてみた結果を書き記します。
「ℓ」を使用しなくなった理由
まず、使用しなくなった方の簡単なまとめ。
- 【東京書籍】 会社案内 お問い合わせ よくあるご質問Q&A 教科書・図書教材:中学校 技術・家庭
- 平成14年度の中学校教科書から「国際単位系での表記に準拠するため」
- 「平成20年度の高等学校理科の検定を境に、検定指示がなされるように」
- 平成23年度小学校教科書検定以降は、『平成21年度に出されました「義務教育諸学校教科用図書検定基準」などによるもの』
- 教科書における単位記号の表記について|お知らせ|大日本図書
- 平成23年度小学校の教科書、平成24年度中学校の教科書「日本の単位表記を国際基準(SI単位と呼ばれます)に即したものに変更する流れを受けて」
- 『大学入試センター試験や高等学校理科の教科書のリットル表記が,「L」となっています。このことから,弊社では,小学校や中学校の教科書でも国際基準の表記とするのが妥当と判断』
- 朝日新聞 2007年04月13日 朝刊 科学1 027ページ
- 「3つのリットル表記、乱立 化学2など国際標準に 教科書検定」
- 化学2と物理2のリットルの表記について修正が求められ、斜体の l から、SI でも許容されている大文字「L」を使う形に修正。ただし、生物2は、修正は求められなかったという記事。
- 小学校の算数ではℓを使うのが普通だが、SIでは誤りとしている。中学理科の教科書には L やカタカナ表記としている教科書もあるという話題も含まれている。
- 義務教育諸学校教科用図書検定基準全部改正 新旧対照表(全部改正のため,参考用):文部科学省
- 変更箇所
- 旧: 「計量法」(平成4年法律第51号)に規定する計量単位を用いること。ただし,当該計量単位の中に国際単位系(SI)の単位がある場合には,原則としてこれによること。
- 新: 計量単位及びその記号は,「計量法」(平成4年法律第51号)によること。ただし,当該計量単位の中に国際単位系(SI)の単位又はSIと併用される単位がある場合には,原則としてこれによること。
教科書における流れとしては、東京書籍は平成14年度から「国際単位系での表記に準拠するため」変更を始めていた。その他出版社は、平成20年度の高等学校理科の検定の変更があり、続いて平成21年度に出された「義務教育諸学校教科用図書検定基準」に拠るようです。
義務教育の教科書での変更の理由として、教科用図書検定基準の改訂箇所「SIと併用される単位」の追加を理由としている説明がありますが、これまでは「記号」の規定がなく新しく「記号」の規定が追加されたことも大きな違いと感じました。
「ℓ」を使い始めたまとめ
結論としては、明確な情報は見つからず不明。教科書は、1950年代から「ℓ」が現れ始めます。その理由は見つかりませんでした。
- 日本でリットルが使い始められたときから「ℓ」が使われていた?
- → 古い文献では「ℓ」は見つからず(あまり使われていない可能性)。
- → 古い文献は、印刷技術等の問題(活字がない等)で存在しない可能性。
- → 古い文献では「ℓ」は見つからず(あまり使われていない可能性)。
- 途中から「ℓ」を使い始めた?
- → 教科書等で「ℓ」が使われ始めた時期が存在するが、指導要領などでは示されていない。
- 教科書以外では?
- → 商品・広告での使われ方にも、使われ始めた時期が存在しそう。新たな情報があれば追記。
リットル記号の種類
どのように記号が表記されているか、次のように分類することにします。
- 立体活字の「l」または「L」
- サンセリフ体
- セリフ体
- 斜体の「l」
- 筆記体の「ℓ」
- 記号なし
- リットル(カタカナ)
- 立(漢字)
Unicode のℓ
ℓ(U+2113) は「Letterlike symbols」に分類されています。
U+2113 script small l is commonly used as a non-SI symbol for the liter. Offi- cial SI usage prefers the regular lowercase letter l.
https://www.unicode.org/versions/Unicode15.1.0/ch22.pdf
また、Unicode U+2113 ℓ (SCRIPT SMALL L) の説明は次の通り。
= mathematical symbol 'ell’
= liter (traditional symbol)
• despite its character name, this symbol is derived from a special italicized version of the small letter l
• the SI recommended symbol for liter is 006C l or 004C L → 1D4C1 𝓁 mathematical script small l
≈ 006C l latin small letter l
https://unicode.org/charts/PDF/U2100.pdf
以上の説明からは、SIの表記である立体の l ではなく、筆記体の「ℓ」(や、斜体?)が求められているように感じます。Unicode のフォントを作成する際の参考までに。
参考文献
教育図書館・文部科学省図書館の蔵書
- 東京書籍「改訂あたらしいさんすう三年上 (小算383)」
- ℓを使用
- 使用開始年度: 1955年
- 発行日: 1954年5月10日
- 検定年: 昭和29年(1954年)
- https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/TEXTBOOK/EB10001655/
- 東京書籍「あたらしいさんすう三年上 (小算307)」
- ℓではない
- 検定年: 昭和24年(1949年)
- https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/TEXTBOOK/EB10001609/
- 東京書籍「改訂あたらしいさんすう三年上 (小算333)」
- ℓではない
- 検定年: 昭和26年(1951年)
- https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/TEXTBOOK/EB10001620/
- 東京書籍「改訂あたらしいさんすう三年上 (小算359)」
- ℓではない
- 検定年: 昭和27年(1952年)
- https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/TEXTBOOK/EB10001637/
- 文部省学習指導要領」7 算数科・数学科編 1 / 戦後教育改革資料研究会編集
- https://nierlib.nier.go.jp/opac/opac_link/bibid/BB80007868
- 「学習指導要領 算数科・数学科(試案)」昭和22年度
- p.16,79: カタカナの「リットル」「デシリットル」
- 「算数数学科指導内容一覧表(算数数学科学習指導要領改訂)」昭和23年(1948)9月30日
- p.10: 斜体の l, dl
- 「小学校学習指導要領 算数科編(試案)」昭和26年(1951)改訂版
- p.68, 106: 斜体の l, dl
- 日本書籍「さんすう. 第4学年用上」文部省著
- p.69: 立体・セリフ体の l, dl
- 発行年: 1947年3月
- https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/KINDAI/EG20086511/
- 東京書籍「初等科算數. 4」
- p.18: 立体・セリフ体の l, dl
- 発行年: 1946年
- https://nierlib.nier.go.jp/lib/database/KINDAI/EG20086374/
インターネットで閲覧できないものは、レファレンスサービスで調べていただいたものです。
国立国会図書館デジタルコレクション
教科書・教育関連
- 「学習指導要領 : 試案 昭和22年度 算数科・数学科編」(文部省/[編] 東京書籍)
- 16コマ目(p.27): l(立体のセリフ体)
- 出版年月日: 1947年5月
- https://dl.ndl.go.jp/pid/1445644/1/16
- 「算数数学科指導内容一覽表 : 算数数学科学習指導要領改訂 翻刻」(文部省/[著] 日本書籍)
- 6コマ目(p.9): 「測定」に立体・セリフ体の l
- 出版年月日: 1948年9月
- https://dl.ndl.go.jp/pid/1701554/1/6
- 「算数のドリル : 啓林小学生の算数準拠 4学年後期用」(教育文化研究会/編 鷺書房教育文化研究会)
- 41コマ目(p.20): ビーカーのイラストに ℓ、文章は斜体・セリフ体の l
- 出版年月日: 1952年7月
- https://dl.ndl.go.jp/pid/11621156/1/41
- 「算数科における学習指導内容の実践的研究」(長野県算数数学教育研究会/編 暁教育図書)
- 49コマ目(p.88): 容器のイラストは「ℓ」「立」「dℓ」、文章は「リットル」「デシリットル」
- 出版年月日: 1952年
- https://dl.ndl.go.jp/pid/9542916/1/49
- 「算数教育講座 第4 (量概念と測定) 」(日本文化科学社)
- p.57: 「4 デシリットル・リットルの導入と実測」斜体・セリフ体の「l」
- 出版年: 1955年
- https://dl.ndl.go.jp/pid/9541408/1/36
その他の文献
- 「JIS機械工業規格全集 第7巻」
- p.167: 「リットルとガロンの換算表JIS Z8431―1956」に、斜体・セリフ体の「l」
- 出版年: 1957年
- https://dl.ndl.go.jp/pid/2482841/1/91
- 「標準化ジャーナル 22(6)(340)」「小数点の記号とリットルの記号の話」(山本弘)
- p.16: 「リットルの記号はl(小文字)か、L(大文字)か」に「日本では、数字の1との混同を避けるために、計量単位規則の中でも、lの代わりに筆記体(斜体)の活字を用いてlやmlと印刷している」。ここの l は、斜体・セリフ体の l
- 出版年月: 1992年
- 「ローマ字の話」(岡倉由三郎 著 [他])
- p.3: 「リットルの代わりに L. を書いてあつたりする」
- 出版年: 昭和21年(1946年)
大阪府立図書館蔵書
- 「六年生の算数 下」(大阪書籍算数編集委員会/著 大阪書籍)
- 出版年: 1953年
- p.174: 「六年生のテスト」にある単位変換の問題(リットルからデシリットルへの変換など)に「ℓ」と記載
- 「授業の技術 3 学習帳の生かし」(東井義雄/[ほか]著 明治図書出版)
- p.168-169: 「算数科における学習帳の生かし方」に「文字の練習はローマ字ノートのように三線を引いて練習させるとよい」とあり、第2図に三線の上に「ℓ」を記載
- 出版年: 1963年
国立国会図書館デジタルコレクションの一部と上記蔵書は、大阪府立図書館のリファレンスサービスで調べていただきました。
朝日新聞 広告
- 1978年(昭和53年)11月08日 東京 夕刊 8ページ , 1段 , 広告
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- カタカナ「リットル」
- 1981年(昭和56年)07月29日 東京 朝刊 6ページ , 1段 , 広告
- (広告)コカ・コーラ・ボトラーズ コカ・コーラ1リットルサイズ
- カタカナ「リットル」
- 1985年(昭和60年)05月17日 東京 朝刊 6ページ , 1段 , 広告
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- ℓ
- 1986年(昭和61年)05月03日 東京 朝刊 14ページ , 1段 , 広告
- (広告)サッポロビール リボンオレンジ シトラス リボンアップル 1.5リットル新発売1
- ℓ
- 1993年(平成5年)11月10日 東京 朝刊 28ページ , 1段 , 広告
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- ℓ